ホットラインが鳴る。
「○○救急隊です。電車飛び込み、男性。心肺停止状態、右下肢切断。場所は・・・」 その人は、いくつかの大きなビニール袋と一緒に運ばれて来た。 全身どす黒い血にまみれ、顔も、皮膚の色も良く分からない。 心肺停止状態。すぐに蘇生が始められた。 同時に、びりびりに破れた服を脱がしていく。 看護師になって2年目になったばかりの春のことだった。 この1年間で、かなりのことでは驚かなくなっていたが、この光景は目をつぶりたくなるものだった。 「大きな血の塊り・・・」そう思ってしまった。 どす黒く赤いその色以外、周りの色がなくなったようだった。 残っている左足には、白かったであろう靴下が履かれていた。 そっと脱がせた。 「先生、靴下重いよ・・・。」 私の小さな声は喧噪にかき消された。 足には指が無かった。 ずしりと血の滴る靴下を持ってしばらく立ち尽くした。 「モモ、脚さがせ。」 医師の声に我に帰る。 「あ、はい。」 一緒にやってきた黒いビニール袋は4つあった。1つづつ持ち上げてみる。 1つ目は軽かった。やぶれた服が入っていた。 2つ目はちょっと重い。所持品と思われる物、この人が判るものが入っていた。 3つ目、すごく重い。 これだ。 そっと開ける。 しゃがんだ足もとに、ごろりと右足が転がった。 「・・・先生、あった。」 「指まであるか確認して。」 足りなかったら、鉄道職員さん達が現場を探すのだそうだ。 カラスが持って行ってしまうこともあると聞いた。 指はちゃんと揃っていた。 その人は、一度も心臓が動き出すことはなく死亡が確認された。 ‘血の塊り’だったその人を丁寧に拭いた。 血は乾いて固まり、なかなか取れなかった。 肌の色が分ったら、ちゃんと人になった。 ‘怖いと思ってごめんなさい’心の中でそうつぶやいた。 あの時の靴下や黒いビニール袋の重さは、今でもずしりと憶えている。 持ち上げられない程の、重くて重い、命の重さだったのだと思う。 #
by momo-hospital
| 2009-09-25 21:24
| 救命救急センター
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